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「2017年印象に残ったミュージックビデオ10選 後編」

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6 Fkj Live at La Fée Electricité, Paris
 

電気の発展の歴史が表されたラウル・デュフィの《電気の精》は110名の科学者や発明家が鮮やかな色彩と軽やかなタッチで描かれています。その中心で様々な楽器や機材を一人で操る姿が印象的なFKJが奏でる音は煌びやかで、まるで陽だまりのように私たちを暖かく包み込みます。映画音楽を学んだ経験があることから、FKJの音楽は視覚芸術に従属する聴覚的要素が強く、絵の中に自然と溶け込んでいきます。
 
 
7Alicia keys -Blended family
 

日本でも過去にミュージシャンの不倫が大きな話題となりましたが、アリシア・キーズも夫のスウィズ・ビーツと交際が報道された時は不倫略奪と世間からバッシングされました。この作品はスウィズの前妻との間の連れ子に捧げられています。複雑な家庭環境は現代では珍しくなく過度に引け目を感じる必要は無いとはいえ、血の繋がりが無い親子関係は情緒的に共有する部分のないただの同居人としてしかとらえられていない場合も多く、苦悩や葛藤に悩まされるケースもあります。アリシア・キーズも長年バッシングに耐えながら、血の繋がらない子どもとの関係を模索してきました。そして作品中で夫のスウィズと前妻マションダと共に子供たちとの時間を楽しみ、”What you do for love”(愛のためにあなたは何をする?)と問いかける彼女は音楽に絆を託して歌います。また、映像を白黒で表現することによって余計な情報を排除し、複雑な事情をシンプルな物語として伝え、私たちに「共感」という形で当事者意識を持たせるような工夫がされています。
 
 

8 Sabrina Claudio – “Stand Still” [Movement Visual]
 

この作品は”Music Video”ではなく”Movement Visual”という体裁で公開されています。直訳すると”動きのある絵”ですが、なぜ名称を通常と異なる形で発表したのでしょうか?
そもそも一昔前はPV(Promotion Video)という呼び方が一般的だったのが、いつの間にかMV(Music Video)という呼び方が普及しました。WikipediaによるとMusic Videoとは”宣伝や芸術目的で制作された、曲とイメージを統合した短編映画である”そうです。毎日大量にYoutubeにアップロードされる映像作品の「革新性」は限界に差し掛かっているとさえ感じられますが、「いかに飽きさせないか」が鍵となる市場のなかで新しい見立てや視座を模索する姿勢を感じました。
 
 

9 Princess nokia-”TOM BOY”
 

男勝りの活発な女の子を意味する”TOMBOY”を冠した本作品は、そのタイトル通りPrincess Nokiaの突飛な行動の数々に目を奪われます。
”My little boobs and my stomach belly”とバースで繰り返す通り、 Princess nokiaは自らの胸や腹を露出します。しかも野外で……。
ニューヨークのジャーナリストであるスーザン・ファールディ曰く”女性に対する差別的な表現・表象は「外に向かって堂々と行われるのでなく、極めて内向きに、そして目立たないように拡散されている社会的特性」”であり Princess nokiaの作品内での行動はそういった見えにくい女性差別を正面から跳ね返す力強さがあります。
 
 
10 Young Thug– “Wyclef Jean”
 


最近改名をした事で世間を騒がせたYoung Thugの最高に面白い1曲です。Young Thugが10時間遅刻した挙句、「インスタグラムがハックされた」という理由で出演せずに帰ってしまうという出来事が記録されています。知人から洋楽アーティストにMVの撮影をドタキャンされた話を聞いたばかりなので、気の毒とは思いつつ思わず笑ってしまいました。普段、製作側の事情をそうでない人が知る事がないけれど、この作品ではアーティスト不在の「撮影」と「編集」のみのドキュメンタリーという珍しい仕上がりになっています。