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【INTERVIEW】劣等感という感情を映像で表現。「一本の実験映像として観てほしい」 / Inferiority complex

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2019年10月に公開された映像作品『Inferiority complex(劣等感)』。

今作で初めてbacterの監督を務めた金にインタビューを実施しました。

金 鵬(Peng Jin)

1991年、中国ハルピン市生まれ。大学時代は母国でマスコミを専攻し、テレビ番組と自主映画作品を作り始めた。大学卒業後、中国中央テレビ局に就職。ディレクターとしてニュース番組の編集に携わる。高校時代からずっと岩井俊二、園子温などの日本の映画監督に憧れ、2014年来日し、翌年武蔵野美術大学大学院の映像コースに入学、実写作品の脚本を中心に映画制作の研究をしてきた。

 

——まずは『Inferiority complex』の企画背景をお聞かせください。

先日公開した記事でも書きましたが、荒木経惟(あらきのぶよし)さんという写真家の影響が大きいです。彼は主に女性や花、空を撮影しているんですが、過激な表現によっていろいろな非難を浴びています。

 

ただ、彼の撮る写真が正しいかどうかはさておき、本当に自分の世界観を信じているからこそ、迫力のある作品を撮れるのだと思うんです。

 

彼のような写真家をはじめ偉大な芸術家のみなさんは、技術があるだけではなく、その人なりの確固たる哲学があるものです。だから、すごくかっこいいんですよ。表現したいことを表現しているという情熱は、見ている人にも伝わります。

 

僕はそんな表現に影響を受け、以前から気になっていた「劣等感」という人間の特性を表現することを目指しました

 

 

——もともと人が抱く「劣等感」という感情が気になっていらっしゃったんですね。

そうですね。人を観察をすることが好きなんです。

 

作品に登場する2人の女性もそうですが、仲のいい対等な友人同士に見えながらも、実は1人のほうが少し強くて、もう1人が一歩引いている感じ。そうした関係性を客観視するのがとても好きなので、この企画もおもしろくなるのではないかと考えました。

 

 

——どうして登場人物2人の設定を女子高生にしたのでしょうか。

10代後半という年齢は、だんだん自分と他の人を比べるようになり、その差を実感して強烈な感情が生まれやすい時期なのではないかと思いました。

 

もう少し若ければ、その差を意識しないかもしれません。反対にもう少し年齢を重ねると、働き出して忙しくなり、じっくり考える時間もなくなるのではないかなと……。

 

あと、若い女の子はいつでも他のキャラクターに負けない魅力を持っていますね。

 

 

——確かにそうですね。ちなみに、ああいう衝撃的な結末を迎えるというのは、どのような意図があったのでしょうか。

作品なので、非現実的な要素も含んでいます。劣等感に支配されている人間の怖さを具象化するならば、最もダイレクトなアプローチだと考えました。

 

この作品を作りながら改めて、自分がこうした劣等感に支配されたらいけないなと実感しましたね。解決方法はいくらでもありますから。

 

あとは、韓国映画の影響を受けているかもしれません。実際に起きた事件を基にした映画がいくつもあるんですよ。

 

世の中には人間の明るいポジティブな部分を表現している作品がたくさんあります。だからこそ、人間の醜い部分、悪い部分を映した作品のほうが、エンターテイメントよりも価値があると感じますね。

 

 

 

——金さん自身もきっとこれまでに劣等感を感じた経験がありますよね。そういった感情に苛まれた時、どのように対処しているんですか?

自分を変えるしかないと思っています。

 

僕は個性を持っている人や頭のいい人が好きで、常にそういう風になりたいと思っていますが、なかなかうまくはいきません。いろいろ試しているところです。

 

 

——今作のポイントがあれば教えてください。

通常の映画やドラマの場合はストーリーがあって、見ていると次々と新しい情報が入ってくると思います。

 

今作は劣等感という抽象的な感情を「実験映像」で表現しているので、ドラマのようなシーンだけではなく、イメージカットも入っています。

 

 

——実験映像は映像ジャンルの一つだと思うのですが、具体的にどのような特徴があるのでしょうか?

一言では説明がしにくいのですが、衝撃的な編集手法と画で作っている映像ですね。見る側に一つのストーリーを伝えるのではなく、世界観や感性を見せているようなイメージです。

 

実験映像は通常の映画と比べると理解がしにくいです。学生の頃に教授がどういう風に実験映像を鑑賞したらいいのかを教えてくれて、だんだんと分かるようになりました。

 

美しい花瓶のような芸術品を見る感覚に似ているかもしれません。その作品をいろいろな目線から見る、という見方が正しいと思います。

 

なので今作も、話の流れのみに着目するのではなく、一本の実験映像としてご覧いただけたら嬉しいです。

 

 

——一つの芸術品をいろいろな目線から見る、というのはとてもイメージがしやすいです。それが見方だとして、実験映像に「作り方」はあるのですか?

作り方はみんなそれぞれですね。どういう実験を行うのかを考えて、自分でその手法を見つけてやる、という感じ。

 

正解のない世界です。

 

 

——編集で意識したことがあれば教えてください。

特に注意したのは、登場人物2人の感情をいかに引き出すかということです。インタビュー部分はあえてモノクロにして色の情報をなくし、話している表情に目がいくようにしています。

 

これは、ユダヤ人の虐殺をテーマにした『シンドラーのリスト』という映画を参考にしました。

 

その映画は基本的にモノクロだったんですが、ユダヤ人の少女が着ているコートだけは赤色で表現されていました。赤と黒の対比が強くでていて、赤いところに注目がいきますよね。その色使いを試してみました。

 

 

——最後に何か伝えたいことがあればメッセージをどうぞ。

劣等感というネガティブなことをテーマにしたのは、決して人間に失望しているからではありません。ネガティブなものは常に存在するのですが、それときちんと向き合うことができれば、もうこわくありません。自分を大切にしてほしいです。

 

 

<Photo by Nana Bannai(坂内 七菜)>


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映像を観る:『Inferiority complex

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