Interview||Mai Akiyama

【INTERVIEW】映画制作への想い「物語(ストーリー)のある作品を作りたかった」 / 十月の物語

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bacterで新しく公開された『十月の物語』は、海辺の街を舞台にした短編映画です。

「長期休暇の高揚感と開放感、旅先での出会いと恋。そして、休暇の終わりの寂しさを表現したい」という想いから企画が始まりましたが、蓋を開けてみると……「燦々と照りつける太陽も、きらきらと輝く波打ち際も映っていない“季節外れのバカンス映画”」が完成。

今回はそんな本作の脚本と監督と務めた安田 瑛己にインタビューを実施し、制作の背景や撮影の裏話について話を聞きました。

 

安田 瑛己

1987年生まれ。東京都清澄白河出身。早稲田大学第一文学部卒業。2012年より映像ディレクターとして「エレファントストーン」に入社。WEB CMやMVなどの企画、演出から撮影まで幅広く行なっている。自身が監督した短編映画が「SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2015」をはじめ、数々の映画祭にノミネートされるなど映画制作も隙を見つけて活動中。

 

——海辺の街を舞台にした短編映画を制作しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

そもそも僕は映画が好きなんですよ。それは、物語のある作品に魅力を感じているからなのだと思います。PVやMVももちろん作りたいけれど、やっぱりそれ以上に物語のある作品を作りたかったので短編映画にしようと決めました。

 

当初はいわゆる「バカンス映画」をイメージしていたんです。青い空と海、白い砂浜が広がっていて、長期休暇中に旅行に来た女性2人が海辺ではしゃいでる。そしてそこにいるライフセーバーと出会って恋が生まれるのかどうか……っていうような展開を考えていました。

 

「バカンス」と言っているくらいですから8月か9月に撮影を行う予定だったんですが、なにせ準備が遅く、10月の撮影になってしまいましたね。映画って難しいんですよ。物語、ロケーション、キャスト、音楽、映像……それらすべての要素の「良さ」が合わさって映画になるので何一つ妥協できません。

 

特に今回はオリジナル映画なので物語を作るところに時間がかかりました。物語がおもしろくなければ、つまらない映画になってしまいます。だからどうしても時間をかけてしまって、撮影が後ろ倒しになった結果「季節外れのバカンス映画」が完成しました。

 

——南伊豆で2日間撮影を行ったんですよね。実際のロケはいかがでしたか?

大変でした(苦笑)。ロケ地に選んだ伊豆の弓ヶ浜までは東京から車で片道約4時間かかりますし、日が暮れるのも早い場所なので、撮影スケジュールに余裕はありませんでした。

 

しかも、10月上旬に強い台風が日本に上陸したので、海も海辺も荒れている状態でした。弓ヶ浜は「日本の渚100選」に選ばれている通り、ものすごく海と砂浜がきれいな場所なんですが、撮影した10月中旬はまだ台風の影響が残っていましたね。

 

その上、2日間とも天候に恵まれなくて……とにかく撮影はスムーズに進まなかったです。

 

——……ものすごく大変だったわけですね。そうした状況の中で、どのように撮影を進めていったのでしょうか。

初日はお昼の12時過ぎに現場に到着して、まずはファーストカット(主人公2人が海に来るシーン)の撮影へ向けて準備をしてたんですよ。いざ撮ろうとしたら雨がザーッ。

だから、雨が降っていても違和感のない、売店で買い物をしているシーンから先行して撮影していきました。

その後も雨は止みそうになかったので、撮影できるシーンを見極めて臨機応変に進めていきましたね。

 

それでも初日に外で撮影する予定だった4〜5シーンが撮りきれず、「残り1日でどうしよう!?」と。シナリオと香盤表を並べてみても、現実的に全部を撮影するのは厳しい。

 

そこで、たっつー(竜口ディレクター)がスクリプトドクターとなり、「このシーンはなしにしましょう」「このシーンとこのシーンは合わせてしまいましょう」と脚本を書き直してくれました。

 

テラスでお酒を飲むシーンは、部屋飲みのシーンへ。釣りをするシーンは、釣りすらできないというシーンへ。そうやって脚本を大幅に変更していったので、実はあの主人公2人、旅行に来ている設定なのにビックリするほど何もしてないんですよ(笑)。

 

 

——それでも今回の『十月の物語』は上映後の質疑応答も盛り上がり、賑やかな雰囲気でした。どうしてなんでしょうね?(※エレファントストーンは毎月の全社会議で、bacterの新作映像をみんなで鑑賞しています)

 

一つだけあるとすれば、作品に物語(語られるべき要素)があるかどうかだと思いますね。

 

例えば、最近話題になった映画のひとつに『JOKER(ジョーカー)』ってあるじゃないですか。映画を鑑賞した後に「あのシーンがよかった」「あそこで悪に陥るのってどうなのかな?」っていう話になりますよね。そういう話ができるのはきっと、登場人物(キャラクター)がいて、物語を展開していくからなんですよ。

今回もそういう要素があったからみんなと話ができたのだと思います。

 

映画を制作している人が“映画館で上映すること”にこだわっているのは、お客様の反応を見たい、知りたいからだと思います。*映画『長生ノスタルジア』も長生村で完成披露上映会をしたじゃないですか。作品に対するお客さんの反応がみられて、一緒にいろいろと話せる場は楽しいなって思いますね。

 

そういう意味ではbacterの作品も「ただ作りました」という報告で終わらずに、全社員の前で流すあの場がすごく大切。普段の業務ではなかなか関わりのないメンバーとも個別で話をすることができました。

 

*映画『長生ノスタルジア』:安田が監督を務めた千葉県長生村を舞台にしたプロモーション映画

 

——最後に、この10分間の映像作品をどんな想いで制作していたのか教えてください。

フットサルをしたり、キャッチボールをしたりするのと同様で、この作品に費やす10分間はみなさん“映画を体験する”わけですよね。制作に携わっているスタッフとキャストは48時間以上。

みなさんの人生の貴重な10分間をいただくわけなので、それに値する、もしくはそれ以上の価値を与えたいという気持ちで制作しました。

 

<Photo by Nana Bannai(坂内 七菜)>


bacterの公式Twitterでは『十月の物語』をはじめとした映像作品や、記事をご覧になった感想をお待ちしています。 @bacter_esをつけてつぶやいていただけると嬉しいです。

 

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