漫画家・五十嵐大介氏 書面インタビュー
『SIGNAL』監督の嶺です。
『SIGNAL』では、漫画家・五十嵐大介さんにイラストレーション担当として海と人間の関係を描いた絵をご提供いただき、更に絵を描いている様子を撮影させていただきました。
撮影終了後、五十嵐さんに書面でインタビューを行いご回答いただいた内容を、原文のまま掲載させていただきます。日本、世界を代表する漫画家である五十嵐大介さんの創作行為についての考え方が垣間見え、非常に興味深い内容となっております。
ぜひ、ご覧ください。
漫画家・五十嵐大介氏 書面インタビュー
◯今回の企画は、「MotherOcean」のプロジェクトの趣旨に賛同され参加されたところを契機として、その後私たちbacterが「SIGNAL」へのご参加をお願いさせていただきました。なぜ本プロジェクト(MotherOcean)に参加されたのか、お教えください(ちなみに、「SIGNAL」には「警鐘」という意味も自分としては込めております)
1998年に初めて西表島を訪ねて以来、心の居場所というか、もうひとつのふるさとのような大切な場所です。
その時に出逢った美しい風景や人、体験が今でも私の創作の源になっています。
家族が出来てからも毎年のように訪れていて、家族にとっても帰省先みたいな感覚です。
八重山とは少しでも関わりたいと思っているので、このお話しもお引き受けさせていただきました。
「SIGNAL」に興味を持ってくれた方は是非「MOTHER OCEAN」もご覧になっていただきたいです。
▼「MOTHER OCEAN “What’s your relationship with the ocean?” – Voices from Okinawan Coral Reef Island -MotherOcean」
◯bacter作品「SIGNAL」を観ての作品全体としての感想、感じられたことがありましたらお教えいただけますでしょうか。
映像と音楽が美しいです。撮影の日は嵐の翌日で、溜まっていた汚れが洗い流された後のような空と光が印象的な1日だったのですが、そのときの気配のようなものが映像に再現されていますね。
(監督注:撮影日の2021年1月8日は、前日が季節外れの暴風で、当日もまだその余韻が残っているような、風が強いけれど空も海も澄み切った日で、作品のテーマとは非常にマッチしていました。)
◯撮影手法や作品のカットの中で、印象に残ったカットや手法はありますでしょうか?(例:マクロレンズ撮影、タイムラプス、水中撮影など)
タイムラプスが効果的に時の移ろい、光の変化を映し出していましたね。水中シーンがあることでアトリエのロケーションを感じやすくなっていたと思います。
筆先をマクロレンズで撮ったシーンは大画面で観るとより面白く見れそうです。
◯今回は鎌倉にある「アトリエ水平線」という素晴らしいロケーションで撮影を行いました。映像の中で映されている海も、七里ガ浜をはじめ鎌倉の海が中心です。五十嵐さんは鎌倉在住であることを公表されており、また様々な媒体で鎌倉に関わるお仕事もされていますが、鎌倉の海にどのような特徴や美点を感じていらっしゃいますか?
もともと鎌倉に越して来たのは海の近くに住んでみたかったからでした。
ずっと内陸や山で暮らしてきて、海をいつも感じる生活をしたことがなかったので。
鎌倉は狭い街なんですが、狭さを感じないのはやはり海があるからだと思います。
開けている感じがあるんです。
風が抜けて空気が常に動いている。
海に由来する変化に富んだ地形で、歩いても楽しい土地です。
◯少々不躾な質問となってしまいますが、五十嵐さんは映像作品を自ら制作することをお考えになったことはありますでしょうか(アニメーション、実写関わらず)?
私から見ての印象ですが、五十嵐さんの漫画作品は映像的だなと感じております。コマ割りや構図が、映像作品のカット割りやカメラレンズを感じさせるような印象が強くあります(絵本からはあまりそういった印象を受けないため、漫画において特に映像を意識しているのかな?と想像していました)。また、宮崎駿監督作品に強い影響を受けたことをインタビューでもお話しになっているかと思います。
映像で記録したいと思うことはよくあります。
観るのも好きなんですが、なぜか映像で表現したいとはあまり思わないんです。
私はもともと俳句のように少ない手数で無限の世界を表現することに憧れがあるんです。
絵と言葉だけで表現する漫画が私の感覚に近いのかもしれません。
◯上記の「映像的」という質問と関連しますが、五十嵐さんはご自身の絵で目指すのは「写実的」なのか、それとも正反対なのでしょうか。過去のスケッチや今回の描いていただいた絵を拝見して、遠くから全体の印象を見ると非常に「リアルさ」を感じるのですが、マクロ撮影などでクローズアップすると、実にシンプルな要素で構成されており、記号的であったり、写実と正反対のベクトルのようにも感じました。今回の「SIGNAL」を通して、絵というものの不思議を感じられたのが個人的な収穫でしたが、五十嵐さんの中で理想をどのあたりに置かれているのかお聞きかせ頂けると嬉しいです。
私が理想に思うのはそのとき表現したいことに最も相応しい表現方法を用いることです。
作品ごとに表現したいことが違うなら、作品ごとに違う見せ方に挑戦したいと思っています。いろいろな手法に挑戦して表現の幅を広げていきたいです。