Project Story||Sho Tatsuguchi

2020年賀ムービー 制作日記

#story|
SHARE THIS ARTICLE

“映画や小説などを見たり読んだりした時に一見してよく分からないこと、「これってどういう意味だろうか」とか「制作者の意図は分からない」とか、理解できずにモヤモヤしてしまうことがあるかと思います。そのモヤモヤをそのままにしておくのか、それともネットで他人の感想や分析、制作者のインタビューを調べようとするのか、どちらの行動をとりますでしょうか。

 

僕は、その分からなさを突き詰めて考え、結局何かしらの結論に行き着かなかったとしても、それも含めて自分の鑑賞の一部として捉え、そのままにします。

 

・・・というのが建前です。実際はめちゃくちゃ調べます。特に、制作者自身の言葉でその制作意図を語った記事や本をよく読みます。人の感想は割とどうでもいいのですが、制作者の言葉は踏まえた方がより正しい鑑賞な気がするからです。

 

前置きが長くなりましたが、この小品にも意図らしい意図があります。僭越ながら、この年賀ムービーがどういったプロセスで考えられ、制作されていったのかを記録したいと思います。

「年賀ムービー」の定義のようなもの

そもそも年賀ムービーとはなんぞやということを考えた時に、そこに与えられている枠は「新年にふさわしいムービー」であるということだけです。その「ふさわしい」の解釈も制作者に委ねられています。

 

つまり、実質、テーマや撮影対象に縛りはなく、自由です。

自分が撮りたいものを撮ればいいのです。
・・・というのが建前です(と僕は思います)。

 

これは性格にもよるかとは思いますが、自分は基本的には真面目で物事を世間体と照らし合わせて、まっすぐ正面から捉えがちです。「年賀ムービー」というのは、つまりは会社を代表して差し出す年賀状のようなものだと、ガッチガチに捉えています。

最初の考案

とはいえ、基本的に発想は自由なので、まずはじめた作業として、自分が好きなものだったり、撮影したいものを思いつく限りに列挙してみました。

 

規格外の大きさの風船、一面の雪景色、向井秀徳、金属バットで素振りする女性、グリーンバック、地方都市のロードサイド、SF的展開、ホッピーetc…

ここから取捨選択して、「年賀ムービー」の枠に収まりそうな、雪景色とSFだけを残して企画を考えていきました。

 

本編をご覧いただいた方はお分かりかと思いますが、雪なんてちらっとも出てきていません。
この最初の考案はボツになりました。

長野の冬って、普通雪降ってますよね?

なぜボツにしたのか?
それは撮影日の1週間前のことでした。

 

その日はスタッフ・キャスト・ロケ地・内容も決まり、あとは撮影するだけという段階。
雪を撮影するために、スタッフの一人が長野出身ということもあって、長野に1泊する予定でした。

 

撮影も近くなってきたので、「吹雪いてたりしたら嫌だな」と、なにげなく天気予報を見ました。長野の天気は快晴マークが続いていました。

 

「あれ、雪は?」
気象庁のホームページから積雪量を確認したところ「0mm」でした。これはもうただ寒いだけです。

 

南の方で生まれ育った者としては、長野=スキー=冬は雪が積もってて当たり前、という図式は絶対的なものとして信じ込んでいました。

代替案

そこから急ピッチで代替案を考え始めました。次点でやりたいことが、合成用のグリーンバックを使った撮影。仕事でグリーンバックを使用したことはありましたが、使い方次第で新しいことができるなと漠然と考えていました。

 

そんな中で、ある時たまたま目にした動画が非常に興味深いものでした。

詳しい情報は知りませんが、これはグリーンバックで人間をくり抜き、普通ならありえない場所にその人を合成して置いて、シュールな空間を作り出すというものです。

 

ここで惹かれたのが、ある空間にグリーンバックで別空間を映し出すことで、どこでもない新しい空間に生まれるというアイデアでした。

会社の歴史

このアイデアと「年賀ムービー」感をどうくっつければいいのか悩みました。撮影も差し迫っている中、焦りもありました。でもこういう時の方が意外とすんなり思いついたりします。

 

今の会社の事務所は渋谷の猿楽町にあります。この場所に移転したのが2017年の10月のことです。僕もこの移転と同時にエレファントストーンに入社しました。

 

ただ、ここに行き着くまでに事務所を4回移転していることを話で聞いていました。
2011年創業ということを考えると、かなりハイペースなのかもしれません。

 

この「意外と多い移転の回数」を「会社の歴史」として捉えれば、グリーンバックのアイデアとうまく組み合わせることができるのではないかと考えました。

 

この考えに至ったのが、撮影日3日前のことです。
あとはいろんな人に助けられながら撮影できました。なんとかなるものです。

最後に

制作日記的なものを書いたのは初めてですが、小っ恥ずかしい気持ちになります。誰にも言っていない秘密を打ち明けているような、そんな気分です。

 

ただ、これからも「年賀ムービー」は作られ続けるかとは思いますので、備忘録的な意味も込めて書いてみました。
来年はどんな映像になるんだろうなー。

▶︎「2020 New year movie」本編